色絵幾何学文台鉢(古九谷様式)

 出土遺跡:山辺田遺跡A地点
 調査主体:有田町教育委員会



 今回ご紹介するのは、新たに山辺田遺跡で出土した古九谷様式の色絵陶片である。
 古九谷様式といえば、これまで数十年間に渡って、九谷(石川県)か肥前(有田)かで華々しく生産地論争が繰り広げられてきたが、近年では調査・研究の進展により、肥前で生産されたことが確実になってきた。最近、その根拠となる資料がまた新たに出土したため、ここでその一つをご紹介する。




                  
(内面)


 山辺田遺跡は、陶磁器工房跡と推定される遺跡で、昨年10月から今年の1月に掛けて、その一部の調査を実施した。遺跡は、山辺田(やんべた)という名前からも分かるとおり、古九谷様式の色絵素地を多量に生産したことで知られる、国指定史跡山辺田窯跡に近接した場所にある。出土した色絵陶片は全部で20数点あり、以前工事の際にも30点以上出土しているため、すでに60点ほど出土・採集されていることになる。また、山辺田窯跡でも10点ほど出土しており、山辺田窯跡関連としては合計70点ほどになる。
 この色絵陶片はそのうちの1点で、色絵古九谷に分類される大形の台鉢高台周辺部片である。破片の大きさは11cm×4cm程度で、元は口径30cm前後の製品と推定される。


                 
(外面)

 




◆ 素地の特徴


               (断面)


 素地は表面・胎土ともにやや灰色を帯び、外面胴部の高台脇に指跡が一ヶ所残っている。また、厚さ約1cmほどある底部には、高台内に窯割れが認められ、深い部分では内面から2mmほどのところにまで達している。
 高台の成形方法は、おそらく通常の皿と同様にまず高さ1cmほど削り出し、その上(下?つまり畳付に近い方)にさらに高い高台を貼り付けたものと推定される。よって、高台内面の1cmほどのところには、円圏段ができており、断面にも接合面かと思われる亀裂が見られる。

 



◆ 文様の特徴


              (内面拡大)

              (外面拡大)

 内面には、見込みに緑絵具で家屋状の文様が描かれるが、剥落しているため明確ではない。見込みの周囲には、八角形の色絵線一本とその外側に帯を巡らし、四方襷文で埋めている。この帯に塗られた色は黒っぽく変色しているが、よく観察すると元は青絵具であったことが分かる。また、口縁部は窓絵状に区画し、中を地文で埋め、その上を上絵具で塗りつぶしている。区画内の文様としては、青海波と四方襷文らしいものが確認でき、塗りつぶしている絵具は、緑と青が確認できる。

 外面は胴部と底部の境に二重の染付圏線を巡らしており、胴部には上絵で唐草文が描かれている。この唐草文も一見黒色に見えるが、よく観察すると青色である。また、すでに上絵具が剥落しているが、左側の唐草の先端部には、花らしい文様も描かれている。高台は基部しか残っていないが、外面は黒絵具を用いた七宝繋ぎ文で埋められており、その上を黄色で塗りつぶしている。

 



  ま と め


 この陶片は素地などの特徴から見て、山辺田窯の製品と考えてまちがいない。製品の分類としては、色絵古九谷様式の中でも一般的に「幾何文手」と称されているものであり、主として内面に亀甲状の幾何学文様を描くこと、外面に青上絵具を用いた唐草文を巡らすことなどが特徴である。こうした幾何文手の台鉢は伝世品もいくつか知られているが、内外面の文様パターンや素地などはすべて今回の出土資料と類似している。よって、山辺田窯の中でも、おそらく同じ窯で生産された製品である可能性も高く、これまでの出土資料の中では、7号窯製品として紹介されているものと最も共通性が高い。生産年代としては、これまでの研究成果から1650年前後と推定される。
 




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