第445回 おカルおばさんどこへいく


  
平成13年 8月2日〜


妙念寺電話サービスお電話ありがとうございました。

本願寺新報という新聞に「親と子の童話」という紙面があり、
「おカルおばさんどこへいく」というお話がありました。



 小さな小さな島に、おカルさんというお寺によく
お参りする人がいました。


海からまっすぐの坂道を、まっ赤になって、せかせかと
おカルおばさんは登っていきます。「きょうも急いで
どこへいくの」


「おジヒさまの、ところじゃないの。なんべんいったら
おぼえてくれるのかね」


おジヒさまというのは、ホトケさまのこと、

おカルおばさんは、田んぼの仕事も、ほうりっぱなしにして、
よくお寺まいりをしていたのです。


この小さな島では、まわりが海なのに、けっして、魚を
とったり、貝を拾ったりしませんでした。


けれども、一年にたった一日だけ、それが、許されて
いたのです。


おカルおばさんも、前の日につくった、草餅やお寿司を
もって、浜へやってきました。

島の人はごちそうを食べ終わると、「それっー」と太鼓に
あわせて、まるで運動会のように、海へ飛び込んでいきました。


潮が、ひいているので、子供たちでも、漁ができます。

ところが、気づくと、いつのまにか、おカルおばさんは、
皆をおしのけて、一番先頭にたって、手当たり次第、
ハマグリやウニを拾いあげると、ぽんぽんと桶に
いれていきます。


「日頃は、おジヒさま、おジヒさまと、有り難がって、
お寺参りばかりしているのに、やっぱり人は分からない
ものだよね」と

山のように、貝やウニを採り、誰よりも多く採れた獲物を
背負って、さっさと帰るおカルおばさんを見て、顔を
見合わせて笑いました。


 でも、その晩遅く、浜を通り抜けようとした島の人が
見たのは、大きな木の桶から、何かを取り出して
海に戻す人の姿でした。


そして人間に話かけるように「ごめんよ、こわい思いを
させて、島の人達が見つけないうちに、みんな隠して
あげようと思ったけど、相手は大勢だもの、やっぱり
間に合わなかったよ。助けられたのはあんたたちだけ、
本当にごめんね」とハマグリやウニに話かける
おカルおばさんの姿でした。


これがムツレ島のおカルさんの物語です。
150年たった現在でも、島の人びとは、おばさんと、
おばさんのおジヒさまのことを、だれも、忘れて
いないということです。


妙念寺電話サービスお電話ありがとうございました。
次回は、8月9日に新しい内容に変わります。

本願寺新報 親と子の童話 

「おカルおばさんどこへいく」より抜粋

文 中川正文師

参考文献
「妙好人伝」永田文昌堂
「お軽同行物語」百華苑
「妙好人を訪ねて」本願寺出版社
「妙好人お軽」法蔵館
「六連島のお軽」市原栄光堂