『有田町歴史民俗資料館・有田焼参考館研究紀要 第1号』1991
「窯跡出土の初期色絵素地大皿について」
−山辺田窯跡・丸尾窯跡を中心として−
                       村 上 伸 之
    その6

 

■ STARTING POINT ■

 

 本日は、山辺田7号窯跡出土色絵素地の分類を示した部分を掲載する。
 本文中では、染付入り素地を体部の形状から《A》〜《C》・《他》の4種類、計7タイプに細分し、底部の形状から2種類、2タイプにに分類した。また白磁素地は、体部の形状から《A》・《C》〜《F》の5種類、計11タイプに細分し、底部の形状から《ア》・《イ》・《エ》の3種類、計4タイプに細分した。
 1〜4号窯はそれぞれの物原の関係が明確になっておらず、製品の組合せとしては、必ずしも客観的に区分することは難しい。しかし、7号窯の出土状況から、染付入り素地と白磁が共伴する組成が確かに存在したことが確認できる。

(註)原文の遺物分類の表記には機種遺存文字を含む。そこで、ここでは各窯の表記に色分けを用い、以下のように示した。
 ●3号窯 染付入り素地 「
□−□類」 白磁素地「□−
 ●4号窯 染付入り素地 「
□−□類」 白磁素地「□−□類
 ●2号窯 染付入り素地 「
□−□類」 白磁素地「□−□類
 ●7号窯 染付入り素地 「
□−《□》類」 白磁素地「□−〈□〉類


3. 出土素地の分類

 

(四)山辺田7号窯

 本窯から出土している色絵素地の可能性がある製品は60数点である。全体の形状が分かるものは少ないが、染付を入れたものもいくらか見られる。染付の入らないものは小型の製品が多く、3号窯と並んで染付を入れた素地を中心に生産した窯であった可能性もある。

 

=染付の入るもの=  

(1)体部からの分類  Fig.5へ PL.4へ 

《A》口縁部の直行するもの  

A−《1》類(Fig.5−17)
 口径36cm前後と推定される浅い皿で、口緑内外面に染付線を1本入れたもの。底部付近はやや厚く作られている。

A−《2》類(Fig.5−19)

 口径36cm前後と推定され、口縁の端部を平らにしたもの。口縁の内外面に染付線を1本ずつ入れている。

A−《3》類(PL.4−1)
 型打ち成形して捻花状にしたもの。

 

《B》口縁部の外反するもの

B−《1》類(Fig.5−18)
 口径22cmほどと推定され、口縁部をやや折りぎみにした中皿。内外口縁部に1本ずつ圏線を入れ、内底周囲にも圏線を1本廻らして、段を付している。

 

《C》折り縁にするもの

C−《1》類(Fig.5−20)
 口径22cmほどと推定され、口縁部を折って内面胴部に太い二重圏線を入れたもの。内底周囲に段は付されていない。やや粗質である。

C−《2》類(PL.4−2)
 口縁部を直角に近く折ったもの。縁幅は3.4cmである。内面は縁の外周に1本、内周に2本の圏線を入れ、外面は胴部に文様が配され上部に圏線を廻らしている。

 

《他》その他

他−《1》類(PL.4−3)
 底部の破片で、高台内に二重角枠の変字銘を入れたもの。

                   

(2)底部からの分類  PL.8へ

《イ》高台の断面を四角くするもの

イ−《1》類(PL.8−6)
 高台の外側面をやや内傾させ内側面は直立させたもので、畳付を平らに削り内外角を傾斜に沿って少しだけ削っているもの。高台の状態が分かるものはわずかであるが、一般的な皿類では全てこの形状をしている。3号窯のイ−1・2類に多少似ている。

 

《エ》高台の高いもの

エ−《1》類(PL.8−7)
 高さ2.5cmほどのやや開いた高台で、一部に透かしを入れたもの。外面の上下に二重の圏線を配している。畳付は平らに削っている。

 

=染付の入らないもの=

(1)体部からの分類  Fig.5へ PL.4へ

《A》口縁部の直行するもの

A−〈1〉類(Fig.5−23)
 口径20cmほどと推定される、一般的な丸皿。

A−〈2〉類(Fig.5−24)
 口径25cm前後と推定され、口縁の端部を平らにしているもので、口銹を施したものもある。

A−〈3〉類(Fig.5−25)
 口径27cm前後と推定され、口縁部を直行させ端部を内側に曲げたもの。

 

《C》折り縁にするもの

C−〈1〉類(Fig.5−27)
 口径22cm前後と推定され、口縁部を折るもの。

C−〈2〉類(Fig.5−28)
 口径24cmほどと推定される浅い皿で、折り縁にしたもの。縁幅1.5cmほどで、外面の口縁端部はわずかに膨らみを持たせている。

C−〈3〉類(Fig.5−29)
 口径23cmほどと推定される浅い皿で、縁を曲面にしたもの。

C−〈4〉類(Fig.5−26)
 口径27cm前後と推定され、体部の途中から折ったもの。

 

《D》体部を2段以上にするもの

D−〈1〉類(Fig.5−22)
 胴部から口縁部を、内抱えぎみに2段に作ると推定されるもの。

D−〈2〉類(PL.4−4)
 胴部で一度外側に折って内傾ぎみに立ち上り、口縁部を外反させたもの。

 

《E》ドラ鉢形

E−〈1〉類(Fig.5−30)
 口径21cm前後と推定され、口縁部を外側に折ったもの。

 

《F》台鉢形

F−〈1〉類(PL.4−5)
 高台内を円凹状に削り込んでいるもの。内底に段は付されていない。

     

(2)底部からの分類  PL.8へ

《ア》高台の断面をU字形にするもの

ア−〈1〉類(PL.8−8)
 高台の内側面を直立、外側面をやや内傾させ、畳付の両角を斜めに削って平らな面を作っていないもの。高台幅はやや広く、高台内の一部を露胎にしている。内底周囲に段が付けられており、C類の底部である可能性がある。2号窯のアー2類に近い。

 

《イ》高台の断面を四角くするもの

イ−〈1〉類(PL.8−9)
 高台の内側面を直立、外側面をやや内傾させ、畳付を平らにしたもの。高台幅が比較的広くハリの残るものと狭いものがあり、広いものは高台脇にカンナ削り痕を残している。4号窯のイー3類や2号窯のイー1類に近い。

イ−〈2〉類(PL.8−10)
 高台の内側面を直立、外側面をやや内傾させ、畳付を平らにして両角の釉を傾斜に沿って少し剥いでいるもの。7号窯のイ−《1》類に類似している。

 

《エ》高台の高いもの

エ−〈1〉類(PL.8−11)
 高さ2.5cmほどの高台で、外側面をほぼ直立させ内側面を外傾させたもの。畳付は平らに削って両角を斜めに削っている。4号窯のエ−1類に近い。


■ COMMENT ■

 

● 山辺田7号窯は、焼成室床面で1630年代前後の染付瓶が出土しており、実際には現在7号窯製品とされている色絵素地はこの窯のものではない。接している6号窯の床面からは1640〜50年代頃の染付鉢等が出土しており、おそらくこの6号窯の製品と推定される。

● 山辺田7号窯の出土製品は、現状では染付製品などから3号窯の直後、4号窯と同等かその少し前に位置付けられている。3号窯との最大の違いは、染付入り素地と白磁素地が適度に共伴している点で、これは逆に白磁素地がほとんどを占める4号窯との違いでもある。しかし、これまで再三指摘してきているように、現実的には、1〜4号窯の製品は明確には区分することができない。その他の要素も加味して考えれば、現状では、本来4号窯は7号窯と同様な組成であった可能性が高く、3号窯製品とされる組成の途中から白磁素地が増加した可能性もあるものと考えている。

 




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