『有田町歴史民俗資料館・有田焼参考館研究紀要 第1号』1991
「窯跡出土の初期色絵素地大皿について」
−山辺田窯跡・丸尾窯跡を中心として−
                       村 上 伸 之
    その3

 

■ STARTING POINT ■

 

 本日は、山辺田3号窯跡出土の染付入りの色絵素地の底部からの分類と、染付の入らない白磁の分類を示した部分を掲載する。
 本文中では、染付入り素地の底部を《ア》〜《エ》7種類に分類し、計14タイプに細分した。また、3号窯跡に染付の入らない素地が存在することは意外に知られていないが、体部から《A》〜《C》の3種類、計8タイプ、底部は1種類、計4タイプに分類している。


3. 出土素地の分類

(2)底部からの分類

《ア》高台の断面をU字形にするもの  PL.6へ

アー1類(PL.6−1)
 器厚の薄い高台で側面の内側が直立、外側がやや内傾しているもので、畳付の処理は面を残さないように丸く丁寧に仕上げ、内角は畳付付近まで釉を残し、外角はやや上まで露胎としているもの。高台内の圏線には《2−2》・《1−2》などがあり、形状の分かるものにはB−5類とB−6類がある。大皿では《2−2》圏線の製品に典型的なものがあり、《1−2》圏線の製品はウー1類にやや近い形である。高台幅は広い。

アー2類(PL.6−2)
 アー1類と類似した形状や畳付の処理を施し、高台の器厚が厚いもの。高台内の圏線には《2−0》・《1−0》・《0−0》などがあり、形状の分かるものには《2−0》がドラ鉢形の製品が多く、《0−0》がB−4類・C−3類などを含む。高台幅は比較的広いものが多く、《0−0》の一部にやや狭いと推定されるものがある。

 

《イ》高台の断面を四角くするもの  PL.6へ

イー1類(PL.6−3)
 高台内側面が直立、外側面がやや内傾しているもので、畳付を平らに削り両側面の釉を傾斜に沿って深く削り落としているもの。高台内の圏線で明らかなものは《1−2》だけであり、高台幅は広い。

イ−2類(PL.6−4)
 イ−1類と類似した形状で、外角の釉は傾斜に沿ってわずかに削り、内角はほとんど削っていないもの。高台内の圏線で明らかなものは《2−0》だけであり、高台幅は比較的広い。

イ−3類(PL.6−5)
 畳付の両角を斜めに削っているもの。高台内の圏線で明らかなものには《1−2》・《2−0》があり、形状が分かるものはA−3・4類があるが、A−4類の方が削りがやや雑である。高台幅は比較的広い。

イ−4類(PL.6−6)
 畳付の両角を斜めに削るかやや丸みを帯び、ほぼ垂直に高台内を深く削り込んだもの。削りは一定せず、イー3類よりもかなり雑である。高台内に圏線を入れたものはなく、高台幅は狭い。

イ−5類(PL.6−7)
 高台の内外側面をやや内傾させ、畳付は平らにして内角を斜めに、外角を傾斜に沿って深く削り込んだもの。高台内の圏線は《1−?》で、形状はA−5類である。高台幅は比較的広い。

 

《ウ》高台の断面をV字形にするもの  PL.6へ

ウ−1類(PL.6−8) 
 高台の内側を直立させ外側を大きく内傾させたもので、畳付にはほとんど平らな面を残さないもの。畳付の内外角を傾斜に沿って削っている。高台内の圏線は《2−2》・《1−2》で、形状の分かるものはA−1類、B−1類、C−15〜17類などである。高台幅は広い。

ウ−2類(PL.6−9)
 畳付に平らな面を残すもの。高台内の圏線は《1−2》・《1−1》で《1−2》圏線の製品は高台の形状がほぼウー1類と同じで、製品によっては両者が部分的に混じっているものがある。《1−1》の方は薄めの高い高台の製品がほとんどで、イー3類にやや似た作りである。形状の分かるものは《1−2》がC−18類、《1−1》がC−2類である。高台幅は広い。

ウ−3類(PL.6−10)
 高台の内側面を外側に傾けたもの。畳付はウ−2類の様に両角を削っているものや丸くしているものがあり、同じ個体でも部分によって異なる。高台内の圏線は《1−0》があり、高台幅は狭い。

ウ−4類(PL.6−11)
 ウ−3類と類似したもので、高台内を深く削り込んでいるもの。高台内に圏線を入れたものはなく、形状の分かるものにはC−4・7・8類がある。高台幅は狭い。

 

《エ》高台の高いもの  PL.6へ

エ−1類(PL.6−12)
 高さ2cm〜3cm前後の高台を持つもので、畳付を丸く削っているもの。F−3類の高台で、高台内に圏線を入れたものはない。

エ−2類(PL.6−13)
 高さ2cm〜3cm前後の高台を持つもので、畳付を両角から斜めに削っているもの。F−1類の高台で、《1−0》の圏線を入れている。

エ−3類(PL.6−14)
 高さ5.5cmほどの高い高台を持つもので、畳付を両角から斜めに削っているもの。F−2類の高台で、内に圏線を入れていない。

 

=染付の入らないもの=

(1)体部からの分類

 染付の入らないものはA〜C類が出土しており、小型の皿が多い。かなり雑な作りで全体に貫入が入り、染付の入るものとは明らかに質の異なるものがほとんどである。

《A》口縁部の直行するもの  Fig.3へ

A−(Fig.3−19)
 口縁部の先端を丸く作るもの。口径23cmほどのものと、20cmほどのものがある。

A−(Fig.3−20)
 口径23cmほどで、内面の端部を丸くして外面端部を尖らせたもの。                   

A−(Fig.3−21)
 端部を平坦にするもの。染付を入れたものに多少近い素地で、口銹を施したものもある。

 

《B》口縁部の外反するもの  Fig.3へ

B−(Fig.3−22)
 口径30cmを超えると推定される深めの大皿。

B−(Fig.3−23)
 口径は30cmほどで、口縁の端部だけを外側に曲げたもの。

B−(Fig.3−24)
 口縁部をイゲ縁状にした小型の皿。

B−(Fig.3−25)
 口縁部を輪花状に切った大皿。質は染付を入れたものに近い。

            

《C》折り縁にするもの  Fig.3へ

C−(Fig.3−26)
 口径31cm前後と推定され、縁幅2cmほどのもの。

 

(2)底部からの分類

 高台は4つに大別されるが、全て高台幅は小さく、畳付の削りは一般的な染付製品などと変わらないものがほとんどである。

《イ》高台の断面を四角くするもの   PL.6へ

イ−(PL.6−15)
 高台の器厚は薄く高台内を深く削り込んでいるが、畳付内角を斜めに削っているもの。

イ−(PL.6−16)
 高台の外側面を内傾させ内側面を直立させているが、畳付は平らに削るだけのもの。本類だけが染付製品よりも少し高台幅が大きく、胎質もやや異なっている。

イ−(PL.6−17)
 高台側面の外側をやや内傾させ内側をまっすぐに深く削り込んでいるが、畳付は平らに削るだけのもの。

イ−(PL.6−18) 高台側面の外側を内傾、内側を外傾させ高台内を少し深く削り込んでいるが、畳付は平らに削るだけのもの。


■ COMMENT ■

 

● よく“この時期の高台はこんな形状”と示されることがある。特定の時期の高台形は基本的には共通性が高いことはたしかだが、ここの例でも分かるように、必ずしも画一化されるわけではないことはお分かりいただけると思う。

● 山辺田3号窯跡といえば、とかく高台内二重染付圏線を配した素地のイメージが強い。しかし、実際にはさまざまな素地があり、染付を伴わない白磁もいくらかは出土している。ただし、山辺田窯跡でもほかの窯と比べて、両素地の質差は大きく、しかも小皿が主体を占めるなど、ほかの窯のようなバラエティーに富んだ積極的な白磁の素地生産は認められない。

 




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