『有田町歴史民俗資料館・有田焼参考館研究紀要 第1号』1991
「窯跡出土の初期色絵素地大皿について」
−山辺田窯跡・丸尾窯跡を中心として−
                       村 上 伸 之
    その2

 

■ STARTING POINT ■

 

 本日は、山辺田3号窯跡で出土している染付入りの色絵素地を、体部特徴から分類するとどう分けられるかという部分を掲載する。本文中では、7種類、計46タイプに分類しており、よく見ないと、中々その差が理解しにくいかもしれない。一般的に3号窯の製品と聞いてイメージされる以上に、多くの種類の製品があることが分かる。


3. 出土素地の分類

 山辺田窯と丸尾窯の全容を掴むため、出土した素地の分類を行う。大・中・小といった大きさや、皿・鉢の区別は難しいため、皿類は全て含め、鉢類でも碗形のもの以外は含めた。
 しかし破片であるため全体の形状が分からず、いくらかは《その他》で拾い上げたが、紹介できなかったものもあることを付記しておく。ロ縁などの形状と底部に分けて分類を行い、記号の頭に付した《A》口縁部の直行するもの、《B》ロ縁部の外反するもの、《C》折り縁にするもの、《D》体部を2段以上にするもの、《E》ドラ鉢形、《F》台鉢形と《ア》高台の断面をU字形にするもの、《イ》高台の断面を四角くするもの、《ウ》高台の断面をV字形にするもの、《エ》高台の高いものは、各窯統一した。また高台内の圏線数は、高台に近いものと中心に近いものを分け≪○−○≫のように表記している。なお高台内の二重や一重のみの圏線は内側の圏線が変化した可能性のあるものが多いが、本稿では配置された位置から《2−0》、《1−0》のように表記した。

 

(一)山辺田3号窯

 本窯から出土している色絵素地には線や文様などの染付を入れたものと、入れないものがある。出土素地は総数300点余りで、その内250点以上が染付の入るものである。

=染付の入るもの=

(1)体部からの分類

《A》ロ縁部の直行するもの  Fig.2へ                    

A−1類(Fig.2−1)
 深めの皿で、堅く締まった感じの灰色の素地で薄めに作られている。胎土は焼成状態が良ければもっと白色を呈すると推定される。外面口縁部に1本、高台側面に2本の染付圏線を入れており、高台内には《1−2》の圏線を配している。内底周囲に段は付されておらず、口径は36cm前後と推定される。類似した口縁部の破片で、圏線を配してないものも出土している。

A−2類(Fig.2−2)
 口径27cmほどの皿で、外面口縁部の先端近くと下部をやや窪ませ、胴部には槍梅文が描かれている。内面は底面の周囲に2本の圏線を廻らして、浅い段を付けている。

A−3類(Fig.2−3)
 口径35cm前後の皿で、外面口縁下部に染付圏線を廻らして胴部に唐草や槍梅などの文様を描いたものや、ロ縁下部に文様帯を廻らすものがある。高台脇にも二重圏線を配するものもあり、やや高く作られた高台にも圏線や雷文などの文様を入れている。高台内には《1−2》の圏線を廻らして、中央に「大明」銘を入れたものもある。内底周囲には一重圏線を廻らし、段が付けられている。作りは比較的丁寧である。他に本類に含まれると推定される口縁部の破片で、端部を花形に切っているものも出土している。

A−4類(Fig.2−4)
 口径30cm〜40cm前後の皿で、外面口縁部に1〜2本の圏線を廻らして胴部に唐草や蝶、槍梅などの文様を入れるか、腰部に一重圏線を廻らして間に文様を描くようにしている。高台側面にも1〜2本の圏線を入れ、側面に櫛目文などを廻らすものもある。高台内には《1−2》や《1−0》、《1−?》の圏線を廻らしている。内面には口縁部と底面の周囲に1〜2本の圏線を廻らして、間に窓を配したものも見られる。内底周囲には段が付けられ、表面は青灰色を呈している。

A−5類(Fig.2−5)
 ややA−4類と似た口径36cm前後になると推定される皿で、外面口縁下部に1本、高台に2本の圏線を入れている。高台内には《1−?》の圏線が入れられている。内底周囲に浅い段が廻っているが、染付圏線は付されていない。

A−6類(Fig.2−6)
 口径33cm前後と推定される浅い皿で、口縁部を内傾させている。外面は胴部に槍梅文を配し、腰部に二重圏線を入れている。内面は底面の周囲に二重圏線を廻らし、段を付けている。表面には全体に細かい貫入が入っているが、焼成が完全なものはどういった素地になるかは不明である。

A−7類(Fig.2−7)
 口径24cm前後と推定されるもので、胎質や形状はA−6類と類似している。外面口縁部と内底周囲に二重の染付圏線を入れ、内底には段を付している。

A−8類(Fig.2−8)
 口径28cm前後の皿で、胴部からやや内傾ぎみに立ち上がり、口縁部をさらに上向き加減にしているものである。細かい調整や胎質はA−2類にやや似通っているが、外面に圏線や文様を入れたものはない。また内底周囲に二重の圏線が付されているが、段は付けられていない。

A−9類(Fig.2−9)
 口径26cm前後の皿で、胴部からやや内傾ぎみに立ち上がる。A−8類のように外面にロクロ目を残さず綺麗に仕上げており、胴部に槍梅文を配している。内面には底部の周囲に二重の圏線を廻らしているが、段は付けられていない。

A−10類(Fig.2−10)
 A−9類と類似した大皿で、内面体部に二重囲線の丸文を入れたもの。内底周囲に二重圏線が配されているが、段は付されていない。外面は胴部に槍梅の可能性がある文様を描き、腰部に二重圏線を廻らしている。

 

《B》口縁部の外反するもの  Fig.2へ  PL.1へ              

B−1類(Fig.2−11・12)
 口径37cm前後の深皿と推定されるものである。ロ縁部の反りは大きく、外面には0〜2本の圏線を廻らしている。内面の口唇部は、ごくわずかに段状になっている。胎質はA−1類などに似た堅緻な感じのするものである。本類の底部と推定されるものでは、高台側面に二重の圏線を廻らし、高台内は《1−2》の圏線が配されている。内底周囲にも二垂圏線を廻らしているが、段は付されていない。

B−2類(Fig.2−13)
 外面に花唐草文を配したもの。胎質はA−1類と類似している。類似する底部の破片では高台外側面に二重、高台内に《2−?》の圏線が配されており、内底周囲にも二重圏線を廻らしているが、段は付されていない。

B−3類(Fig.2−14)
 口縁部を花形に切って外面は胴部に文様を配し、口縁部に口縁の形状に合わせて圏線を1本入れている。内底周囲にも二重圏線を配しているが、段は付されていない。

B−4類(Fig.2−15)
 口径26cm前後と推定される皿で、腰が張りロ縁部を大きく外反させている。高台の側面に二重の圏線を廻らし、底部と推定される破片には高台内に染付線などは入れられていない。内面は底面の周囲に内側から二重と一重の圏線を入れ、二重圏線の部分に段が付けられている。

B−5類(PL.1−2)
 ロ縁部をイゲ縁状にして、外面胴部に唐草文を廻らした大皿。外面の圏線はロ縁部に1本、高台側面に2本配しており、高台内にも《1−2》に入れている。内面は底面の周囲に2本廻らしており、段は付されていない。胎質はA−1類と類似している。

B−6類(Fig.2−16)
 中皿で2つの破片は接合しないが、おそらく同種の製品と考えられる。型打ち成形で花形にしており、口縁部と内底周囲にも花形に染付線を入れている。口縁の端部は上に曲げてロ銹を施し、端部は平らに削っている。外面には唐草文が配され、高台外側面に二重圏線を廻らしている。高台内には《1−2》の圏線が配されている。

B−7類(Fig.2−17)
 口径31cm前後で、内外面の胴部にそれぞれ二重圏線の丸文、槍梅文を配した深めの皿。外面は腰部に二重圏線を廻らし、内底周囲にも二重に配しているが、段は付されていない。

 

《C》折り縁にするもの  Fig.2へ  Fig.3へ  PL.1へ

C−1類(Fig.2−18)
 口縁端部は残っていないが、口径が30cmほどになると推定される浅めの皿である。口縁部は幅2cm弱の折り縁にしており、端部を上に引き上げている。同種の破片と推定されるものには、ロ銹を施しているものも見られる。外面胴部には唐草文様を描いており、高台側面に二重の圏線、高台内には《2−0》圏線が廻っている。内面は縁の内外と胴上部、底面の周囲に圏線を廻らし、底面周囲には段が付けられている。

C−2類(Fig.2−19)
 口径33cm前後と推定される深皿で、口縁部を凸状の輪花形にしている。外面はロ縁部の下に一重、高台側面に二重の染付線を廻らしている。高台内には《1−1》の圏線を配し、二重方形枠に「福」字銘を入れている。内面は折り縁の外周を輪花状に縁取っており、胴部との境に1本、底面の周囲に2本の圏線と段を配している。縁の幅は1.5cm〜2cmほどである。

C−3類(Fig.2−20)
 B−4類と類似した皿で、大小2つ以上の大きさのものがある。口縁部は小さく折ったままのものと、先端を上に引き上げたものがあると推定されるが詳細は不明である。外面は胴部に槍梅文を描き、腰部と高台側面に二重の圏線を入れている。内面はB−4類と同様に底面の周囲に二重と一重の圏線を入れ、段を付けている。

C−4類(Fig.2−21)
 口径33cm前後の皿で、縁の幅は2cmほどである。外面の口縁部はロクロの凹凸ができており、胴部には二重圏線を廻らしている。内面は口縁部の端を幅8mmほど膨らましており、その内下に1本、胴部との境に2本、底面の周囲に2本の圏線を廻らしている。底面に段は付けられていない。

C−5類(Fig.2−22)
 口径27cm前後と推定される皿で、縁の幅は3cmほどである。緑の端部は約1cmの幅で丸く外側に折っており、外面は窪みになっている。外面の胴部には槍梅文が描かれ、内面には縁のほぼ中央に1本、胴部との境に1〜2本、底面の周囲に2本の圏線を廻らしているが、段は付けられていない。縁の角度はC−4類よりもやや上向き加減である。

C−6類(Fig.2−23)
 口径31cm前後の皿で、縁の幅は約3cmである。C−4・5類などと同様に縁の端を1.3cmほどの幅で丸くして外面はやや窪んでいるが、丸く折ったというよりも厚く作っている。外面の胴部には槍梅文を描いており、内面にはC−4・5類などと同じ様に縁の中央に1本、胴部との境に1本の圏線を入れているが底面について分かる破片がない。

C−7類(Fig.2−24)
 ロ径31cmほどの皿で、縁の幅は約9mmである。縁の端部を上方に突出させており、外面は胴部に二重圏線を入れている。内面は縁の下と底面の周囲に二重圏線を入れているが、段は付けられていない。

C−8類(Fig.3−1)
 口径31cmほどの皿で、縁の幅は2.8cmほどである。口縁部の外面にはわずかに窪みを持つが、内面は先端部がごくわずかに厚みを残すだけで基本的に平らなままである。外面の胴部には七宝繋ぎの文様帯を旋し、内面には縁の外側に1本、内側に2本、底面の周囲に2本の圏線を廻らしており、段は付けていない。高台内に圏線は配されない。

C−9類(Fig.3−2)
 口径32cm前後の皿。縁の幅は2.8cmほどで、C−8類までと比べ縁を折る角度が急である。ロ縁端部は上に折り曲げられており、曲げた部分の外面は浅い溝状になっている。上に向けられた端部の幅は約3cmである。残存部では外面に文様かもしれない線が見えるが判然とせず、内面は縁の外周付近に1本、胴部との境に2本の圏線が入れられている。類似したもので、外面に槍梅と推定される文様を入れたものもある。

C−10類(Fig.3−3)
 口径34cm前後と推定される皿で、C−9類と同様に縁を急角度で折るものである。縁の幅は3cmほどで、やはりC−9類と同じ様に縁の端を幅5mmほど上に突出させているが、端を上側に折らずに丸く削り出している。残存部では外面に染付は入っておらず、内面は縁と胴部の境に二重の圏線が廻っている。

C−11類(Fig.3−4)
 口径33cm前後と推定される皿。縁を急角度に折るものである。縁の幅は2.8cmほどで、先端はC−10類のように幅約6mmの削り出した凸帯を設けているが、角く仕上げられている。残存部では外面胴部に二重の圏線が入れられており、内面はロ縁部と胴部の境に圏線が1本廻っている。

C−12類(Fig.3−5)
 C−4類と類似した形状で、外面胴部にC−8類と同種の文様帯を施し、内面胴部に二重圏線の丸文を配しているもの。縁幅は2cmほどで凸部の幅は9mmである。内底に段は付されていない。同種の底部の破片はC−4類と同形で、高台内に圏線は配されていない。

C−13類(Fig.3−6)
 C−5類と類似した縁を作り外面に槍梅と推定される文様を入れたもので、内面胴部に一重の丸文を配したもの。縁幅2cm、凸部8mmほどで、内底に段は付されていない。

C−14類(PL.1−3)
 縁の端部をわずかに凸状にしたもので、外面には槍梅文が描かれている。内面は縁の内外に1本、底面の周囲に2本の圏線を廻らしており、浅い段が付されている。

C−15類(Fig.3−7)
 口径33cm前後と推定される皿で、胴部の途中から「く」字状に外側に折って、ほぼ直線的に開いて立ち上るものである。外面はロ縁部に1本、高台側面に2本の圏線を廻らしており、胴部の「く」字状になった部分は折った部分の下から削って整形されている。高台内には《1−2》の圏線が配されている。内面は折った部分から上にカンナ削り痕が残っており、底面の周囲には二重の圏線が廻っているが、段は付けられていない。胎質はA−1類と同じ堅緻な感じのものである。

C−16類(Fig.3−9)
 口径45cm前後と推定される皿で、C−15類と同じように胴部の途中から折ってほぼ直線的に立ち上がる。胎質も本類の方がどの破片も焼成状態が良く白色を呈するが、本来同質の素地と推定される。内面は折った部分より上にやはりカンナ削り痕が残っており、見込みの周囲に二重圏線を入れ、段は付されていない。外面はロ縁部の圏線が二重である他はC−15類に似ているが、折った部分は最後に上から削って整形されている。高台内には《1−2》の圏線が配されている。

C−17類(Fig.3−8)
 C−15類と同種の胎質で、口径39cm前後と推定され、口縁部を輪花状にしたもの。

C−18類(PL.1−4)
 口縁の形状は不明であるが胴部の途中から折ったもので、内面の折った部分に二重の圏線を入れている。高台外側面に二重の圏線を廻らし、高台内には《1−2》の圏線を廻らしている。内底周囲に段は付されていない。

 

《D》体部を2段以上にするもの  Fig.3へ

D−1類(Fig.3−10)
 口径32cm前後の深皿で、胴部がやや内傾ぎみに立ち上がり、一度大きく外側に折って口縁部が内湾するものである。外面は胴部に文様帯を廻らし、内面は底面の周囲に圏線を廻らし、おそらく浅い段が付けられていると推定される。

D−2類(Fig.3−11)
 口径30cm前後。外面にD−1類と類似した文様を描いているもので、口径も同程度であろうと推定される。D−1類よりも胴部の外反が弱く、ロ縁部の内湾は強い。内底周囲に圏線が1本廻っており、浅い段が付されている。

D−3類(Fig.3−12)
 口径29cm前後と推定される皿で、胎質は焼成状態が悪いためかやや粗質である。外面は胴部に槍梅文を入れ、腰部に二重圏線を入れている。また高台脇には、わずかにカンナ削り痕を残すものがある。内面には胴部と底面の周囲に二重圏線を廻らしているが、段は付されていない。同種の底部と推定される破片では、高台内に圏線を配していない。

 

《E》ドラ鉢形  Fig.3へ

E−1類(Fig.3−13)
 いわゆるドラ鉢形の製品で、口径は29cm前後と推定される。口縁端部をやや外側に突出させるように削られている。残存部では、高台側面に二重の圏線を廻らしている。同種の製品で外面胴部に四方襷文帯を廻らしたものもある。

E−2類(Fig.3−14)
 口径29cm前後のドラ鉢。E−1類と異なりロ縁部をそのまま内傾させている。高台側面に二重、高台内に《2−0》の圏線を廻らしている。

 

《F》台鉢形  Fig.3へ

F−1類(Fig.3−16)
 口縁を外反させロ銹を施したドラ鉢形に近い形状で、高さ2.5cmほどの高めの高台を付したもの。外面胴部に文様帯を施し、高台側面に二重圏線を廻らす。高台内には《1−0》圏線と「大明」銘を入れている。内底周囲には二重圏線と浅い段が付されている。口径は22cmほどである。

F−2類(Fig.3−17)
 口縁部は出土していないが、外面胴部に槍梅文を描き、高台外側面の上下に1本ずつ圏線を入れたもの。内面は底部の周囲に、外から二重と一重の圏線を配している。

F−3類(Fig.3−15)
 口縁部は出土していないが、高さ2cm前後の高台で高台外側面と内底外周に二重圏線を配したもの。内底周囲には浅い段が付されている。

 

《他》その他  Fig.3へ  PL.1へ

他−1類(Fig.3−18)
 口縁部は出土していないが、大型の深皿になると推定されるものである。腰部は「く」字状に折って二重の圏線を廻らしており、口縁部付近は大きく外反させている。

他−2類(PL.1−6)
 外面にB−5類と同様の文様を配したもの。高台内には《2−2》の圏線を廻らし、中央に「太明□化年製」の銘を付している。内底周囲にも二重の圏線を配し、浅い段が付されている。

他−3類(PL.1−7)
 底部の破片で、二重方形枠内に「福」字を配したもの。高台内の圏線は≪?−2≫である。


■ COMMENT ■

 

● 山辺田窯跡は、有田の中でも、最も色絵素地生産の開始が早い可能性の高い窯場である。その中でも、3号窯跡は最も早く生産した窯として知られている。

● その色絵素地最大の特徴としては、従来から、高台内に二重の染付圏線が配されることが掲げられることが多い。しかし、実際には、さまざまな圏線配置があることがお分かりいただけたかと思う。

● 素地の質も灰色で硬質な感じのする光沢の強いものややや乳白色に近いもの、その中間的なものなどいくつかの種類がある。ちなみに、この光沢の強いタイプの素地は、山辺田3号独特なものである。

 




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